神様に仕えるお使いのことを、神使(しんし)とお呼び致します。
例えば狛犬さんやお狐さん、変わりどころでは鯰さんや鰻さんもいらっしゃいますが、皆様動物の姿をされていますね。
その神使についてなのですが、ちょっと気になることがございます。
猫のお使いさんっていらっしゃるのでしょうか?
狛犬や狛狐を見たことはありますが、そういえば、狛猫は見たことないような…。
ここでは、猫そのものを神様としている猫神様のことではなく、飽くまでも神使としての猫について言及しています。
結論を申し上げますと、猫のお使いさんは確かにいらっしゃいました。
恐れながら存じ上げていなかったので、個人的にはびっくりです。
猫を神使としているのは、蚕神という神様でございました。
蚕神とは「カイコガミ」とお読みしまして、主に養蚕家の間で信仰されてきた神様のことです。
蚕である虫そのものを神様としている訳ではありません。
蚕神とは、蚕やその餌となる桑の葉を害獣や病虫害から守ってくださる神様です。
主に、桑の枝を持った女神として表現されます。
蚕から取れる上質な糸は、絹糸産業として、明治以降の日本の経済を支えてきました。
自然からの恵みが、そのまま日本の経済に直結していたのですね。
蚕神は、自然がもたらす豊穣を象徴しているので、豊穣=女神であるという側面が強いのかもしれません。
蚕神と同一視されている神様も多数いらっしゃいました。
例えば、オシラ様や保食神(ウケモチノカミ)などです。
保食神と蚕神が同一視されるということは、保食神と同一視されている宇迦之御魂神とも繋がっていくことになるのか……と個人的には思いました。
宇迦之御魂神様、なんでもありですね。
蚕を何よりも大切にしている養蚕家には、最も恐ろしい天敵がいました。
それは、ネズミです。
ネズミによる害獣被害は頭痛の種でした。
ネズミは群をなして押し寄せて、蚕の卵・成虫・蛹に至るまで食べてしまうそうです。
たった一夜で、何もかも根こそぎ食べられてしまうことも少なくなく、養蚕家にとっては死活問題に繋がるほどの深刻な被害を被ることもあったそうです。
そこで、養蚕家が重宝したのが猫でした。
いつからか、ネズミの被害を防ぐ目的で猫を飼うのが、養蚕家の間では習わしとなったそうですよ。
事情により猫が飼えない場合であっても、猫の像や猫の絵を書いたお札やお守りを丁重にお祀りしたそうです。
こうした流れから、猫が蚕神様のお使いとして結びついたのは想像に難くありません。
確かに、猫の神使は存在していました。
でも、その存在はあまり聞かないように思います。
それはなぜでしょうか。
前述しましたが、絹糸産業は、明治以降の日本の経済を支えてきました。
国は、特に明治期から昭和初期は、養蚕技術で作られる上質な絹糸を重要な輸出産業の一つとして位置付けていました。
当時は、絹糸産業が貴重な収入資源だったのです。
しかし、昭和初期以降から近代には科学技術の発達により、絹の代替品として化学繊維の普及が進むことになります。
つまり、それは養蚕業の衰退を意味します。
それに比例して養蚕家の数も減少していくという事実に繋がります。
ひいては、養蚕に特化していた蚕神信仰も薄らぐことを意味します。
信仰というものは人々の信仰心によるものであり、どうしても人々の心に頼らざるを得ないというのが実情です。
それ故に、信仰心とは世の流れに応じて、移ろいゆく不確定なものです。
猫の神使をあまり耳にしないのも、こういった歴史背景によるものです。
身勝手とは思いつつ、やはり切なくなりますね……。
猫の神使ですが、狛猫像として現存しているものは非常に少ないそうです。
ですが、そのお姿を今も確認できる場所はいくつかあります。
例えば、京丹後市峰山町泉にある金刀比羅神社もその一つです。
お写真を拝見する限りでは、猫さん特有の愛くるしさを持ちつつも、とっても頼りになりそうな神使さんなのではないかなと思います。
向かって左側の狛猫は、子猫を抱いているというなんとも言えないかわいさ。
思わず和んでしまいます。
こちらの狛猫像は、令和2年9月1日に、京丹後市指定文化財に指定されたとのことです。
もし機会がございましたら、これも何かの御縁かと存じます。
ぜひ、猫の神使さんに会いに行ってみてくださいませ。
峰山町 金刀比羅神社
住所 | 京都府京丹後市峰山町泉1165-2 |
電話番号 | 0772-62-0225 |
参拝時間 | 終日 |
授与所 | 午前8時頃〜午後6時頃 ※季節により変動あり |
アクセス | 山陰近畿自動車道 京都縦貫道 京丹後大宮ICより15分 舞鶴若狭自動車道 福知山ICより50分 丹後鉄道 峰山駅より800m 丹海バス 峰山線・丹後峰山線 金刀比羅神社前 降車 |
その他 | 参拝者用駐車場あり。 祭礼日等で参拝者用駐車場が利用不可の場合は、京丹後市役所前駐車場を利用。 |
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